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1 紫水晶に恋した白猫

彼の岬で、オレはあんたに堕ちた…

あんたが此れを見つけるか解らない、見つけても見るか解らない、見ても言葉をくれるか解らない…けどオレは、言ノ葉を綴るよ。

あんたなら、オレが誰か解るはずだから…敢えて名前は紡がない。
あんたと離れて、どれくらい経ったかな…もう何年も経ったような気がする。
あんたから文が来なくなって、オレは宛先を変えた―…後悔しても遅い。

だから、最後の希望を託すことにしたんだ。
あんたと、また言葉を交わせる事を願って…。

白猫は、赤い織紐の鈴と紫水晶を…今でも大切に持ってるよ。
2 紅月秘める白猫を愛す者
…ほう?これはこれは。言葉遊戯にも飽いておられるかと思っていたが…まだこんな場所で彷徨って居た、とはな。
どう言う風の吹き回しか、お聴きしても…?…クッ、否…其れも無粋か。

お前ならば、解るかもしれないが…緋色の扇、退屈凌ぎの舞に使い過ぎたからか…些か、軸が弱くなってな。
一管一管開く毎、鮮明で有った筈の音さえも消えかけていると言う有様だ。

伴う様、記憶も想いも音を無くす。面影だけが…残って居る様で、な。


文が来なくなったとて、あれは多忙故のもの。三日…程の筈、だろう?
それも待たず断りも無く逃げる様な真似をするお前の口より出てくるその台詞、許す許さぬの域には無い、が……些か、勝手だな。
片方の想いばかりをぶつけていては空回るも当然の事。確かに受け取り、返した筈の想いにさえお前は…目を背け、愛が足りぬと泣きはらす。
愛欲に飢えては、恋情も純粋さを無くすらしい…が、皮肉なものだな。

言葉を交わしたい…と言うなら、…矛盾など持つなよ。
もう……自由になればいい、俺は…お前が俺を忘れる様、願わくば…と、つい最近考えていた所。
別れてから、苦しめられて来ただろう?お前が作り上げた……俺の残像に。

お前が抱くものは…ただの「未練」、の筈。人聞きの良い言葉を並べようと、行動が伴わねば意味を成さないもの……相応の「人聞きの悪い言葉」に変わるだけ、だ。
──…いつまでも捕らわれて苦しめられて居るのならば。袖を濡らす夜が続くと言うのならば…。
俺は…終焉でも構わないぜ。


お前が無理矢理に千切った結び目を再び結うもそのまま手放すも、…好きにすると良いさ。
俺を…捕らえた身、ならばな。


…随分と喋り過ぎた、この程度で宜しいか?──…紅月の君。
3 紫水晶に恋した白猫
―…まさか、言葉をくれるとは思わなかった。…応えてくれて、有難う。

離れていたんだ、この世界から…けど、色々あって…あんたを思い出した。
馬鹿だよな…オレ、嘲笑って罵ってくれて構わない。どんな言葉でもいい…ただ、あんたの声が聞きたかったんだ。

己の身勝手さも愚かさも解ってる…あんたに憎まれ恨まれてる覚悟で此処に、最期を託したんだ。

今、紅月は黒く淀んで…美しさの欠片もない。あんたには相応しくないだろうね…。
けど、嬉しかった…あんたの声が聞けて―…有難う。

緋色の扇…壊れてしまったら、あの岬から海に落としてやってくれよ。きっと、海の泡となって溶けるだろうからね…。


君が行く海辺の宿に霧立たば我が立ち嘆く息と知りませ


この詠を…あんたにあげるよ、愛し君。

我儘や身勝手に付き合ってくれて…有難う。
4 紫水晶に恋した白猫
もし、あんたの持つ宛先が変わっていないなら―…なんて、僅かな希望を抱かせて欲しい。


オレは…愚かな白猫。
5 鈴を失った白猫
…最期に、言いたい事があったのに。

まぁ、自業自得か…。

けど…あんたが言う強いオレって、誰の事なんだろう…気になって仕方がないよ。
オレは…あんたしか知らないのに。


有り難う…幸せだったよ。
6 紅月秘める白猫を愛す者
─…そろそろ、涙も枯れた頃、か?

クッ……人を疑う事ばかりを繰り返し、自分の事は棚に上げたか。俺への疑いは全てお前の思い過ごし…濡れ衣だったが、お前は違って居た事を…忘れた、らしいな。

俺が幾つ…お前のして来た事を許したと思う…?
贖罪をお前に課す気は無いが─…まあ、許されたと知った時点で忘れ去って、その様な言葉を吐くなら…お前は強いさ。

否……俺では力不足、だろう。
我が身至らず、お前を満たせずにすまなかったな…?


逃げるばかりを追うのも、些か疲れた…


ああ…子は、お前程の身丈に育つ日も近そうだが…どうする?お前が…欲しいと口にした子、そして身勝手に放り捨て俺を求めたんだったな…。
架空の話とは言え無責任に命を放る、か─…?

まあ、所詮は作り話、か。


もう…お前の中の未練など消えただろう、俺はこの一言の後、霧中を彷徨うさ。楽しかったぜ……じゃあな。
7 鈴を失った白猫
―…涙って、どれだけ流しても…枯れてはくれないんだ。

解ってる…オレが全部悪いんだ、感情に任せて一喜一憂して…あんたを信じる事が出来なくなっていた、オレが全部悪い。今更反省したって遅いけど、ね…。

ただ一つ…あんたの言う意味が解らない。
あんたの事が濡れ衣だったのは申し訳ないって思う、けど…オレのが、違う?何の事だよ、オレ…意味が解らないよ。

子…そう、だね。今更オレがどんな面向ければいいか…なんて、喩え架空でも…愛してる、あんたと愛し合った証だから。
オレが育てていいなら、独りで育てるよ…。あんたの手を、煩わせる訳にはいかないからね。

彷徨うあんたに手を伸ばしたって、手は届かないんだろう?
―…だから、オレはずっと此処に居るよ。
8 鈴を失った白猫
―……思い出した、あんたの言ってる意味が…やっと解った。

もう、弁解も出来ないよ…過去は変えられない、オレは悔いる事しか出来ない。
ただ…あんた以外の奴に、オレの心の穴は埋められなかった。これだけは、信じて欲しい…なんて、もう無理だよな。

今まで、本当にごめん…。