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1 武蔵坊弁慶

蓮華と桔梗

…今更何を話す事があるのか、と君はそう言うかな。

君ならば、題だけで解ってくれると思うのだけれど…。

どうして苦しい時に、寂しい時に君は傍に居てくれないんだろう…。
否、それは全て僕の所為…だから。

何が言いたいのか、解らないですね…。
僕にも解らないんです。
君に…助けて貰いたいのかも知れない。途方も無い苦しさから救って欲しいのかも知れない。
君に頼るのはお門違いだと、そう君は思うかな。否、それは僕自身がそう思っているから…かな。

…ごめんなさい、本当に要領を得ないな…。

君と離れて、全てが狂ってしまった気がするんです。
今まで、出来ないなりにやってきていた事すら、出来ない。

僕が欲しいのは、救い。
お礼の言葉や謝罪なんかじゃなくて…。
君と云う過去に縋らなければ生きられない愚かな僕を、救って下さい。
僕の事など嫌いだと。もう、思い出すなと。

…なんて、卑怯かな。
こんな事を言われても、君を困らせるだけだと言うのに…。
僕はどうしたいのかな、その答えすら…自分で見つけられずにいる…。
君の声が聞けたら…何かが変われるのかな…なんて、淡い期待を抱きながら…

……ごめんなさい。
2 ヒノエ
神無月、二十六日。


心に溜った思いがあるなら、それを互いへと話して、二人で解決しよう。
吐くんじゃなくて、相手に対して湧いた感情なら…ぶつけていこう。
二人、一緒に。悩んで、傷付いて、立ち止まって、時には離れても。
必ず…乗り越えていこう。
ねえ、覚えてるかい?

でも。
……嫌いにさせないでとあんたは呟いた。

そこまで追い詰めたんだって…思った。
オレの我儘であんたを振り回して…あんたを傷付けて、溜め込ませて、それでも尚、オレはあんたに甘えて。

負担になってるんじゃないかって何時も思ってたオレは…もう、あんたの傍に居れるだけの勇気もなかった。


嫌いになって離れたんじゃない。
今でもオレはあんたを想ってる。

あれから少しだけ巡った季節。
白詰め草や紫君子蘭が隠れたと思ったら、向日葵が見えてきた。
見る度に、あんたを思い出す。
それだけじゃない。空の色や風の音、蝉の声にだって。何をしてても、何を見ても、全部…あんたを思い出す要因にしかならない。


だから、その言葉を言う事であんたが前に進めるって言うんなら…喜んで。
あんたを振り回した、せめてもの罪滅ぼしになるなら。
3 武蔵坊弁慶
…正直、驚きました。
まさか…こんなに早く君からの反応が得られるなんて…ね。

君の目に映った言葉は…きっともう今、何を取り繕っても覆らない気がするから…あまり言い訳めいた事は言いません。
ただ…嫌いになりたくなかったのは…君じゃなく、僕自身。
どんどん…君を疑う事しか出来なくなっていく…僕自身が嫌で。
君に信じて貰えない自分が嫌で…苦しかった。
君が好いてくれる自分を…嫌いになっていくのが…辛かったんです。

そう思えば…確かに負担でなかったとは言い切れないのかも知れません。
今でも…君を思い出せば、交わした言の葉、想い…過ごした日々が鮮明に甦る。
…――辛さも同時に。

でもね…僕も君が嫌いになった訳じゃない。
今でも…大切な人に変わりありません。

絶望の言葉を求める事で…君が逢いに来てくれるんじゃないか…なんて、甘えて。

……どこまでも、僕は卑怯ですね…。
君に逢う資格なんて…君に想い続けて貰える資格なんてないのに。

諦めたつもりでいたのに…
こんなにも…君を求めていた事を思い知る。
君の幸せを願いながら…自分の想いを、消す事も出来ず…中途半端にこの世界を去ることすら出来ずに居る。

本当に…我が儘で…嫌になる。
何を求めても…君が苦しむ結果しか…思い付かないのに…。
ごめんなさい…ヒノエ。
応えてくれて…有難う。
4 ヒノエ
…違う。
確かに内容もそうだけど、そうじゃなくて。それだけじゃなくて。

惚気は相手と一緒に出来ない唯一の事だ。
…あんたが言ってくれたんだぜ。
一緒に出来る事は二人で。そう、約束したのに。

それをあんたが忘れてしまったのか、それとも約を違えてでも漏らさずにはいられなかったのか…それは判らない。
けど、消えない。
言葉自体は流されて消えても。
そうせずにはいられない程に疲れていたあんたの思い、それを見たオレの気持ちは消えない。

…何て、無駄だと言ったオレが言えた事じゃないか。
あんたと一緒にいて、声を掛けてくれて、それでも尚、成長しないオレ自身が無駄だと思ったから告げた。
けど、こう言われてもあんたが受けた気持ちは消えない。
今更、なんだよな。


別れてからは、あんたが怪我なく元気でいてくれれば…それだけを願ってた。
あんたに逢いたい。けど、逢いたくない。そんな気持ちを半分ずつ持ちながら。
…しかし、色んな気持ちが湧いてきて…参るな。どれ程あんたが大きな存在なのか身に染みる。


あれから暫く経ったから大丈夫かと思ったけど…駄目だね。
悪いけど、まだ落ち着いて話せそうにない。
5 武蔵坊弁慶
…二ヶ月。
返事はしないつもりだったんですが…。
時間を置いたからかな…少しだけ、落ち着いて綴れそうな気がします。

僕が…弱いから。耐え切れなかった。
君があの言葉を切り出す前から…きっと。僕の方が駄目になっていたんですね。

繰り返し、君が不安を訴える度に。
それが自分の所為だと思い知らされるから…
自分の狡さが浮き彫りになるから…それが、苦しかったのかも知れません。

大分、秋も深まって来ましたが…元気でやっていますか?風邪等引いていませんか?

もう少し、ですね…君と出会った…あの日は。
6 ヒノエ
不安が不安を呼んで、更に不安になる。それはもう恐怖だ。
あんたがどれだけ言葉をくれても…オレは安心出来なかった。
そんな自分が嫌で堪らなくて…あんたに随分と迷惑を掛けたね。

あんたと話していると心が落ち着く。幸せな気持ちで満たされる。
絶対なんてものはこの世界には存在しないんだろうけど、…それでも…オレにとっては不変なものだった。
……それを忘れてしまう程に、余裕が無かったんだと思う。あんたとの遣り取りを楽しむっていう、余裕が。
…ごめん、ね。


有難う、オレは元気だよ。あんたこそどうだい?そっちではもう紅葉は始まってる?あんたが元気で、笑ってくれてるなら嬉しい。

後一週間も…ないか。本当にもう少しだ。
…うん。何て言うべきか…感慨深い、かな。
7 武蔵坊弁慶
今思うと…今が冷静だからでしょうか。酷く、自分が幼稚だったのだと思います。
色々なものに…耐え切れなかった。互いに、ね。
互いに不安に思い、不信感だけが募って…愛しいと思う気持ちすら、鈍らせていた。

僕も…随分と君には不安な思い、辛い思いをさせてしまいましたね…。
君と過ごした時は、確かに…満ち足りて楽しいものだった筈なのに。
その気持ちに構う余裕が…無かった。
君も辛かった筈なのに…自分ばかりが被害者のような顔をして…。
…ごめんなさい。

君が元気そうで良かった…。
そう、ですね。此方は今、紅葉が見頃かな。今月一杯位が見頃だそうだけれど…。

ふふ…君とこんな他愛の無い話をするのも、何だか擽ったいな…。

今日と云う日とこの場所に…感謝します。
……有難う。
8 ヒノエ
本当、今思えば…だけど。
あの時はもう…限界だった。疲れてたんだ。…そう、互いにね。
不安や不信はそう簡単に消えるものじゃない。だからこそ、あれ以上共に居たら…きっと互いに駄目になってた。


そっちは紅葉か…好いね。こっちは未だちらほらとしか色付いてないから…つまらない。ふふっ…なんてね。
葉が散ってしまうと直ぐに冬が来るから…風邪を引かないように気を付けなよ。
…なんて、あんたの事だから抜かりない、かな。

そうそう、こうして他愛のない話をしてると…矢張り落ち着く。
あんたの持つ雰囲気はオレを安心させてくれた。…同時に不安もあった訳だけど。
これも今だからこそ、そう感じれるんだと思う…けど。勿体ない事してたね、我ながら。

あんたがこの場を用意してくれなかったら、きっとこんな風に思った事を告げる事も出来なかった。
今日と言う日に、あんたがあの時間に言葉を残してくれた事も…嬉しかった。
……有難う、弁慶。
9 ヒノエ
今日と云う日の事。
…迷って、悩んで、沢山考えた。
だから…って言うのも可笑しいけど、残しておきたくて。


中*島/み*ゆ*き
「誕*生」


この歌と、祝いの言葉をあんたに。

…おめでとう、弁慶。


そして、もしも叶うなら……あんたに逢いたい。

正直、どうしたいのか自分でも判らないけど…あんたに逢って、少しだけでも話が出来たらと思って。

無理だったら流して欲しい。
でも、もしも叶うなら…何時でもいい、返事を貰えると嬉しい。
10 武蔵坊弁慶
…驚いたな…。
忙しかったのと…暫くなりきりから離れていたから…。
でも、淡い期待を抱いて此処を覗く自分が居た…なんて笑えてしまうな…。

祝いの言葉を、有難う。

君はまた…僕と話す事を望んでくれるんですか?
……有難う。

宛先は変わっていませんから…時間は問いませんから、良ければどうぞ。

けれど…いざとなったら何を話したら良いか、なんてね。
でも…君にそう言って貰えて…嬉しかった。