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1 真田幸村

変わり者の忍へ

そんな変わり者を好きな某も十分変わっておるな。

気付くか気付かぬかは分からぬし、言いたいことは…特に無い。
何となく、気分を紛らすために書いておるだけでござるから気付かなくても構わない。まず、これで某だと分かってくれるかも怪しいところだしな。

あー…書き残すわけだから何か一つくらい意味のあることを書かぬとな。
では、いつも言えぬことを書いて行こうか。見付かったときが恥ずかしいことこの上ないが…。

えー…某は頬や額に口付けられるのはあまり好きではない。某は口にしてくれる方が嬉しい。別に嫌というわけではないから構わぬのだが…。
あとは…あー…その、口に口付けるときはもっと強くと言うか、…まぁそんな感じの方が嬉しい。要は物足りぬのだ、佐助が足りない。
…ただの我儘でござるから気にしなくて構わぬが。

はぁ…これで一つ言えぬことが減った。佐助が気付かぬと意味は無いが、まぁ良かろう。言葉に出来ただけ随分と進歩した。

あとは見付からぬのを祈るのみ…!見付かったらあまりの恥ずかしさに顔向け出来ぬかもしれぬ…。
いつも忙しそうだが、無理はするなよ。佐助が早くゆっくり体を休ませることが出来るよう祈っておる。
2 真田幸村
消せぬのが誠不本意だ…などと今更言っても仕方ない。これはもう開き直るしかあるまいな。

ということで、少しぼやかせてくれ。これは気付かれても構わぬよ。

あれが夢で良かった。
いくらお前と一緒に居たくても、ああ言われては何も言えない。一緒に居たいなどと…口が裂けても言えぬ。
情け無く縋ることさえ許されぬあの文が、某の作り出した幻で良かったと思う。

少し、心が弱っていたのかもしれぬな。忙しいくせに毎日必ず会いに来るお前に、正直某は重荷になっているのではと不安だった。近い内に多忙と某に会う負担からお前が離れたがるのではないかと、何処かで思っていたのだろう。

某は佐助を信じておるよ。お前が某を好いてくれることも、大事にしてくれることも、信じている。
ただそれが過ぎてお前自身を傷付けぬか心配だ。寂しくないと言ったら嘘になる。返事など要らない、暇になったときでいいと言いながら会いたいと思う。
だがそれ以上にお前が辛くなるのが怖い。

大好きだ。だから某のことより、もっと自重してくれ。佐助が忙しいときは返事は要らない。ただ、某が寂しいときに一言、励ますことだけ許してくれ。某はそれだけで良い。…贅沢言うなら、一行で良いから一言返事が欲しい。

某が今望むのはそれだけだ。
いつかまた時間に余裕が出来たときは、甘えさせてくれ。
3 真田幸村
お前は此所を見ても此所には言葉を残さぬだろうし、今は多忙なようでござるから此所を見たかどうかは分からぬが…見ておらぬと踏んで、言葉を残そう。

先程の挨拶をもって、某からの連絡は最後にしようと思う。

忙しいお前に文を送るのはやはり気が引ける上、いい加減我ながらうっとうしいと思う。
忙しいお前のために出来ること、それをずっと考えていた。某はお前の仕事に手を貸すことは出来ない。お前のために飯を作ることも、風呂を沸かすことも、布団を敷くことも出来ない。
ならば何が出来るのか。見付かった答えは一つだけだった…文を送らぬこと、しばらく会わぬこと。

文を送ってお前を励ますことも考えた。…だが、それは本当にお前のためになるのか?某には、お前の負担にしかならぬように思える。某が文を送ればお前は返さねばと思うだろう。それは嫌だ。
お前に文を送るのはお前のためではない、某のためだ。某が落ち着かぬから、お前と話したいから送るだけだ。お前を励ますなど、ただ己を正当化する口実でしかない。

お前に文を送らぬことが、一番お前のためになる気がした。

某から文を送ることはもう無い、安心して仕事に専念してくれ。また暇が出来た時にはいつでも文を寄越してくれ。

では、しばしの別れを。
さらばだ。
4 猿飛佐助
ごめん。
まさか無理してだなんて思われてるとは考えて無かった。俺は幸せだったんだけど、俺だけだったりしたら冗談にしちゃ笑え過ぎる…出来過ぎて使えねぇって。柄にも無く、やり取りの数は少なくともずっと一緒に居られたらなぁなんて思ってたりね。好きだ、アンタが大好きだ。だからこそ恋人になるべきじゃ無かったのかも。頑張ってみたけど俺は旦那に見合うだけ優しくなれないし、謝らせてばかりだった。謝られる度、悔しくて寂しかった。旦那はもっと寂しい思いをしてたんだろうから口が裂けても言えなかったけど。
ごめんな、本当にごめんなさい。こんなんじゃ謝り足りないね。ごめん。


さて、長々と語っても名残惜しくなるだけだから、ここいらで幕引させてもらうよ。
アンタの為に泣いた涙もここに置いとく。傷付けてばかりで、ごめんな。
この先、旦那の未来に幸せが多くある事を。来年、アンタの誕生日には何処かに言葉を残しておくから。見付けたら笑ってやって下さいな。あ、要らなかったら要らないって言って頂戴。ほっといたら実行しちまう。
勝手極まりない話で悪いけど、これにて失礼。元気でね。旦那なら大将に褒めて貰えるからさ。
5 真田幸村
此処に書かれるとは思わなかった。某の呟き場になっていたのに。

返事は出したから、此処では本音を言ってしまっても見られぬだろう。


某はお前と共に居たい。某はお前でなければ嫌だ。
お前が居ればそれで良い。
お前を幸せに出来るのが某でなくても、お前が他の誰かを想っても、某と一緒に過ごす時間があるならそれで良い。
偽りでも良いから、好きだと言ってくれると尚良いが。

空しいと思うか?
そうかもしれぬ。
だがお前が居ないことの方が某は辛い。
まだお前の居ない生活に慣れていないのに…やはり慣らしておくべきだったか。

某はお前のものだ。それは今でも変わらぬよ。
だが、お前はもう某のものではない。お前はお前の幸せを求めて何処にでも行ける。
某は行けと言った。だが…本当は行かせたくない。某から離したくない。
負担になるだろうから言わぬが…お前を誰にも渡したくない。ずっと某の隣に居れば良いのに。

お前と話すのは某で、触れるのも某で、笑い合うのも某だったら良いのに。
今までそうだったのに、これからは違う。

お前の隣には誰が立つのか。お前は誰を愛するのか。
お前の相手だ、さぞ良い方なのだろう。某のことはきっと、一時の気の迷いだ。そうでなければ某などと一緒に居るはずがない。

愛している。
今でも心から愛している。心の中でお前が居た場所が、ぽっかり空いているのはどうしたら良い?大きすぎて、紛らすことも出来ぬのだ。

お前に会いたい。
会いたいのはお前だけだ。
他の奴などどうでも良い。謝りたかったあの者も、今となってはどうでも良いと感じる。
お前が戻って来るなら、他はどうでも良い。某の幸せはお前だと言うのに。
幸せに幸せを願われても、有難くも何ともない。お前が去っていくならば、幸せも去っていくのだろう。

好きだ。
伝えられぬのがもどかしい。好きで好きで仕方ないのに、お前は居ない。

「さらば」とは言わないでおこう。まだお前が好きだから。お前の帰りを望んでいるから。我儘も甚しいがな。

お前を忘れることが出来たら…いつかそんな日も来るだろう、しばらくは無理そうだが。その時は「さらば」と。
まだ、お前が愛しくて仕方ないのだ。
6 無名さん