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1 石田三成

大事な花

――俺が大事にしているのは、烏賊ではなく花だ。それもこの世に一輪しかない、枯れぬ花のみ。
いい加減理解しろ、そこまで頭の悪いクズではあるまい?

ついでに言うと、俺はツンデレでもなければあの者達に負ける程弱くもない。
故に怪我の心配など余計な世話だ。

…初回から文句ばかりというのも気持ちの良いものではないな。仕方がないから一言付け足しておく。

――愛している。
2 立花ギン千代
…無論、十二分に承知しているつもりだ。もし私よりも烏賊が大事と知れば、貴様の角を生臭いスルメ烏賊と替えてとっくに別れている故。

ああ、ツンデレではなく助平の間違いだったな。
――って待て、純粋な殴り合いで勝てる筈なかろう。鉄扇があればまだしも斯様な細腕で誠に勝てると思っているのか?

ついつい喧嘩腰になってしまった。…さ…最後にまたも平然と恥ずかしいことを言ってのける男よ。


――…私も愛している。時間を気にせず逢える日を、常に心待ちにしている。
3 石田三成
…此処数日、忙しく疲れているだろう貴様の手を煩わせてしまいすまなかった。申し訳なく思うと同時に、己の愚かしさが恨めしい。
加えて、心配など要らぬと言っておきながら体調も崩していたようだ。昨日悪化して、やっと自覚した。それ故に少々弱々しくなっているのかもしれぬ…――これは言い訳にしかならぬか。情けないな。

何はともあれ出逢ってから半年が過ぎた。
これからも共に時を重ね、自然な形で一年、二年と隣り合っていけたなら――それに勝る幸せはあるまい。

最近は不本意ながら格好悪い面ばかりを露呈してしまい、呆れられているやもしれぬ。
それならそれで仕方ないが、俺が勝手に貴様を想う事くらいは許せよ。
…恋うている、いつ何時も。
4 立花ギン千代
――いちいち謝らずともよい。だが体調が崩れれば思考も落ち込もう。風邪をひいた時の何とも言えぬ切ない気持ちならば、立花も覚えがある故。

頼むから人の心配ばかりせず、自身の体調も気遣ってくれ。今現在少しでも回復していれば良いのだが…どうだ?まだ悪いというなれば、寒い日には私が共に寝てやらんこともないが。


…もう半年か。早い、な。貴様が側にいるのが当たり前のようになってしまい、正直あまり実感が湧かぬ。だが三成と出会えて多くの幸せを得た。……その、有り難う。これからも宜しく頼む。


格好悪くとも構わぬよ。少しは人間臭い方が愛着も湧こう?…あと言うておくが、私の恋愛経験というものはそう多くない。貴様が想像するような悲愴な体験もしておらぬ。そういった意味で話せることは数少ないのだが、少しずつ互いの過去にも触れていこう。寧ろ経験豊富な貴様の話を訊きたくもあるのだがな。


すまぬが電信の返事も織り混ぜて此処に記しておく。
――最後に唐突な質問だが、牧場の馬と羊の割合は全てを十とすればどの程度だと思うか?ふと想像したありのままを答えてくれ。
5 石田三成
風邪なら治った。――…多分。
別に貴様の心配ばかりしている訳ではなく、己の事にも幾らかは気を回している。しかしそれでも体調を崩すのだから仕方あるまい。最早俺がどうこう出来る事ではなかろう。
それに俺は毎日でもこの腕に貴様を抱いて眠りたいと思っているのだが。調子が悪く寒い時にしか共に寝てくれぬのであれば、佐和山は秀吉様に返上し代わりに蝦夷地を貰い受け、その地に住み着き万年風邪引きにでもなるしかあるまいな。

感謝の言葉は要らぬ。俺が貴様を幸せにしたのではなく、貴様が俺の隣で勝手に幸せになったのに他ならぬ故。
俺も貴様の傍らで過ごす日々に数多ある幸を嬉しく思っている。振り返ってみれば、付き合う前から満ち足りていたかもしれぬな。――想いを告げる少し前だけは、一時的に荒んでいたが。

俺が推測したような恋をしていないのなら、貴様のあの後ろ向きな思考は一体何処から来たのだ。勝手な思い込みで幸せを拒絶していたのだとすれば、どうしようもない阿呆としか思えぬ。
だから俺は経験豊富などではないと…!――…貴様や片想いを含めれば、七人ほどか。勘違いも混ざっているので怪しいが。いずれにせよ貴様に対して疚しい事はない、知りたい事があれば文で訊け。流石に此処で晒し者になるのは御免だからな(…)

――生憎だが、その問いの意図するところは知っている。それでも答えを知りたいというなれば…確か、初めてそれを問われた時には半々と言った筈だ。何事も釣り合いが取れているのが良かろうと思ったが故、深い意味はない。
6 立花ギン千代
……すまぬ、また随分と間が空いてしまった。
多分、とはまた曖昧な。熱があればたとえ微熱でも身体は辛かろう?私が看病してやれれば良いが、背後の肉体的な面についてはそうもいくまい。故にこれを三成が見る頃には完治していることを祈る。これからの時期は湯冷めなどせぬようにな。


風邪を引いた貴様と寝れば、立花も風邪を引いて共倒れになるのは明らかでないか。…逆に健康体なれば毎日褥を共にしても、良い。貴様の油断しきった――幼子のような健やかな寝顔を見るのは好きだ。


荒んでいたとはまたも大胆な発言をする。自分が気付かぬうちに妙な事をしでかしたかと気になって眠れぬではないか!この思春期め!(ぇ)


阿呆でも構わぬ。だがそうだな、詳しいことは何時か文でみっちり問い詰めるとしよう。貴様が愛したという七人の侍についても詳しくな(笑)


生真面目な奴め。では痛め付ける方も痛め付けられる方も両方同じ程度に対応出来るということで認識した。流石だな。
――全体的に少々愛想のない返信になってしまったが許してやってくれ。誠に愛している、三成。
7 石田三成
謝る必要はない。以前より伝えていたように、俺もそろそろ忙しない日々を余儀なくされ始めたのでな…お互い様だろう。
風邪は治って引いての繰り返しといったところだろうか。回復したと思えば政務が増え、風呂上りに髪も濡れたままほぼ徹夜といった日々を繰り返したら咽喉を痛め、放っておいたというに何故か今は調子が良い。我ながら意味が解らぬ。

その言葉、しかと覚えておくとする。また文を交わし合うようになった時にはそうさせてもらおう。
なれど、幼子のようとは心外この上ない。貴様の方が先に寝てしまい、間の抜けた面を晒している事が多いくせに何を――…尤も、それすらも愛でずにはいられぬのも事実ではあるが。

別に貴様の所為ではない。というか何故そこで思春期が出てくるのかさっぱり解らぬ…もっとまともな事を言え、この父親っ子め(フン/何)

なれば立花是即ち阿呆、という事で了解した。後々まで伝わるよう書き記しておく(待)
…生憎だが武士を恋うたのは貴様が初めて、他は庶民だ(笑)

嬲られては身悶え泣いて喜ぶ貴様に言われたくはない。だいたいどちらも好きなのではなく、どちらも取り立てて好まぬが故の半々であろう。

――それから一つ、言っておく。俺の文が無駄に長くなるのは貴様も承知の筈、故に律儀に言葉を返す必要はない。不要な箇所は遠慮なく斬り捨てるよう…何なら全て流して、何か言いたい事を一語のみ残しておいてくれても構わぬ。
元々此処は、忙しく文を返せぬ間にささやかながらも繋がっていられるよう借りた場所。だのに遣り取りの形や長さが文とほぼ同じ状態になってしまっては元も子もなかろう。努々負担にせぬように。
8 立花ギン千代
なれば一言だけ残させて戴く。


…逢いたい。
9 石田三成
――…不意打ち、にも程がある。

もし空けられる日時があるのなら、いつでも連絡を寄越せば良い。都合さえつけば抱き締めに行く。

逢瀬の時間は取れないもののただ逢いたい気持ちを伝えたかった、というなれば素直に受け取っておく。
それから、俺も同じ気持ちであると告げておこう。
10 立花ギン千代
先日は遅くまで共に居てくれて感謝する。
逢瀬を先に乞うたのは立花故、最後までけして意識を飛ばすまいと思うていたのだが…相変わらず進歩がなかった、すまぬ。貴様の身体は大事ないか?

…だが三成も同じ想いでいてくれたことは嬉しかったぞ。お陰で少々羽目というか箍を外したような気がしなくもないのだが…忘れろ。


私の方はどうやら徐々に落ち着きそうだが、頼むから髪を濡らしたまま徹夜などするでない。風邪を引く一番の原因ではないか。これからは特に冷えるであろうしな。

――…それと最後に、公共の場で人の嘘の性癖を暴露するのは止めて戴きたい。だ、誰がいつ嬲られて悦んだというのだ!馬鹿め!(ぁ)
11 石田三成
礼を言われる程の事でもない。
それに眠ってしまっても構わぬ。――というより、寧ろ寝てくれる方が帰り時が判って良いかもしれぬ。お互い起きていると、その…名残惜しくて、なかなか別れを口に出せぬ故。

先日も言ったが、秀吉様以外の者の指示には従えんな。貴様に忘れろなどと命じられては、意地でも覚えていてやろうという気持ちにしかならぬ。諦めろ。

落ち着きが戻るとの事、喜ばしく思う。これからは今まで忙しなかった分、のんびりと過ごして疲れも取るが良かろう。
髪を乾かす間すら惜しかったのだ…まあ、元々自然乾燥派であるのも否めぬが。
とりあえず体調は問題ない。気にするな。

暴露された、と思っていると?それはつまり、貴様自身己の事をそのように認識している事に他ならぬ。…幾ら俺の計算通りとはいえど、此処まであっさりと鎌掛けが成功するのもつまらぬな(フフン/嫌な奴)
12 石田三成
貴様はもう此処を見ていないだろうとは思うが…気付かれなくとも構わぬ、気紛れに少しばかり筆を取ろう。

相変わらず忙しいのだろうな。それで疲れているのか。
或いは何か事情があるのやもしれぬ。それも仕方あるまい。
ただ、健勝であれと…そう、願う。

もし何も言わずに断ち切りたいのであれば、貴様に文が届かぬようにしてくれると助かる。…ああ、ちゃんと宛先不明の文が此方に戻るようにな。
それくらいの優しさなら、向けてくれても良かろう?
そうでなければいつまでも待ってしまいそうな己が嗤えてならぬ。

久方振りにこの腕に貴様を抱いたあの夜を最後に、というのは存外悪くないと思う。
俺の中に残るお前との時間は、色鮮やかで幸せに満ちているものばかりだ。
詰まらぬ口論などで終わるより、余程良い。
好ましい記憶だけ、大切にしまっておける。

たとえもう二度と言葉を交わす日が来ないとしても、別れの言葉は口にすまい。
――それが、俺の意地だ。