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1 星色の魔女

星を包む、黒翼の夜空へ

ふふっ、見つかってしまったみたい。
驚かせてごめんなさい。

本当は貴方の許可を得てから…と思っていたのだけれど、


『せんてひっしょう』


貴方の贔屓にしている国の言葉、よね?
……もしかして、使い方を間違ったのかも。

でも見つけてくれて、本当にありがとう。


貴方を呼ぶ声に気付いてくれたのは…
もう3度目になるのね。


1度目は5月
掴みかけた貴方の片手が、すり抜けた。

2度目は12月
今度は両手で力強く、引き寄せた。

その二つの『季節』より、
     (とき)
とても寒い季節になったわね。


………いいえ、違う。

貴方と出逢えた『季節』よりも、
       (あの時)

貴方を失った『季節』よりも、
      (あの時)

ずっとずっと、寒い。


でもね、私の心の中は…
心地良い暖かさに包まれているのよ。


だって、

貴方の瞳が、
貴方の声が、
貴方の温もりが、

…再び傍に在るのだもの。


私は貴方の温もりになれているのかしら。
辛さ、になっていなければ良いのだけれど…


決して無理はしないで。
私はいつだって、貴方と一緒に飛び続けたいの。

だから、辛い時は辛い。
そう言ってね?


そんな時のために、
この秘密の部屋を作ったのだから。


さぁ、風邪をひかないうちに、温かなディナーにしましょう?
食いしん坊の燕の雛達に、全部食べられてしまわないうちに。
2 星色の魔女
――2108200回、


貴方との縁に感謝しても、しきれない。


それほど、
貴方と出逢えたのは私にとって、
とても大切な宝物よ。


ただ、少し……

『寂しい』

だなんて言うのは私の我が侭かしら…。


早く顔を見れるように、祈ってる――……
3 闇色の魔法使い
やぁ、ごきげんよう。


見付けるのが遅くなってしまったね?…すまない。
こんな素敵な小部屋が城の中にあっただなんて知らなかったんだ。
やれやれ、一本取られてしまったよ。


ねぇ、
君は確かに僕の温もりさ。
いや…時にはうっかり火傷してしまいそうな温もりなんだけれど。


魔法でも言葉でも生み出せない、一緒に居る事でしか生み出せないたった一つの大切な温もり。
僕はもう無くしたくないって思っているよ。そして、君に与え続けていきたいって。


そう思うわりに――!
って、君は思うだろうけど本当さ。
のろまな僕は待たせてばかりだけれど、それでも君を想わない日はないんだ。

君みたいに凛とした風の吹いた時や、君みたいに柔らかな陽射しを受けた時や、君みたいに煌めく銀の星を見た時には特にさ。
僕は強く君を想っている。


だから
僕を待っていてくれるね?


…まぁ
それにしても、もう少し待たせない様にしなければならないんだけれど。
うん、頑張るよ。


――…さて!

ディナーの前にお茶を頼めるかい?カモミールがいいな。
さっきからコイツが煩くて仕方がないんだ。君が戻してくれたコイツが、ね。
4 星色の魔女
お待たせしました。
特製カモミールティーよ。
ゆっくり飲んで、冷えた体を暖めてね?
何より、早く飲めばその熱さで、余計に貴方のそこは煩くなってしまうから。


見付けてもらえただけで幸せ。だから謝らないで。

それに私の方が、随分と長く貴方を待たせてしまっていたでしょう?。
あの日、貴方に助けてもらう迄ずっと……。


あら、火傷させてしまう程?
私はあの口達者な彼のように、熱くはないわよ?

…ふふっ、冗談。

凄く嬉しい、ありがとう。


そんな事を言わないで。恥ずかしい…
でも……そうね……

…風が舞う空の色は貴方の瞳。

…陽差しを受け煌めく露は貴方の耳元。

――何より、星を抱く夜空は貴方を象徴する色。


貴方が想ってくれる対象全て、
私が貴方を想う対象そのものなの。

こんなに強く想っているのに待たない筈、ないでしょう?
忘れたの?私が貴方の再来をずっと待っていたこと。―――ね?


のろま…とは違うわ。
貴方が必死に頑張った結果、時間が過ぎるだけ。
それは痛い程分かっているの。

分かっては…いるのだけれど……少し我が侭言ってしまって、ごめんなさい。


この部屋は、非常用。
いつもは鍵を掛けておくつもりよ?
必要な時に使うの。
それがどんな時かは、分かるわよね?


何故そんな事を言うのか……?
だって、貴方から返されたら、私がすぐに返してしまうことは……今までからの性格で分かるでしょう?
際限無く続いてしまうのを避ける為。貴方の負担になるのは嫌だもの。


はい、
鍵を渡しておくわ。
前のように、散らかしては駄目よ?
5 星色の魔女
_


掃除をしようと思って中に入ってみたら…、
何かが落ちていたの。

ふふっ、何かしらね?


誰かさんが落とした、色とりどりの金平糖?

それとも、
沢山遊んだ後の洗濯物の山?


ふふっ、どちらも不正解。


正解は――


貴方だけへの、
2125600回のありがとう…―――
6 星色の魔女
花園に出掛ける前に、
掃除に来てみて良かった。


2247600回、
愛してるを言っても足りないから…

これからも、
貴方の傍で伝えられますように。


――――愛してる。


ダイヤモンドの
発掘も研磨も上手な、

漆黒の魔法使いさんへ
7 星色の魔女
『2278888』


8の字が沢山並んでいて、とても珍しいと思ったから、報告がてら貴方に贈りたくて。


8の字って、貴方の贔屓の国では、末広がりという意味で良い数字なのでしょう?


貴方の未来と、

家族の未来と、

私達の未来と、

沢山の人の未来。


4つの8の字に願いを込めて。


今日はとても良いお天気。
綺麗な青空が…
私の大好きな青が広がっていて、とても幸せ。


それに、洗濯物も良く乾くものね?ふふ。


今日は逢えるかしら…
楽しみに待ってるわね。
8 星色の魔女
私はこのまま
貴方を信じて待っていてもいいのかしら。

今……
貴方がよく見えないの。

掴んだかと思えば、
容易く私の腕をすり抜けて。
諦めて俯いたら、
顔を覗き込んでくる。


……本当に、
信じていてもいいの?
待っていてもいいの?


………
ごめんなさい。
今の貴方の状況…分かっているはずなのに。


貴方から言ってくれた日時に、
貴方が現れないと……
以前の傷が疼くの。

また貴方がいなくなりそうで、怖いのよ。


……駄目ね。
少し体調を崩しているせいかしら。
感傷的になっているみたい。


近いうちに、
会えるよう祈るわ。
9 星色の魔女
非常事態…と言うべきではないかもしれないけれど。
ここを使う日がきてしまったようだから……


貴方の姿が見えなくなって、どのくらい経ってしまったのかしら…


もしかしたら、貴方は貴方でこちらを待っているのかもしれないわね…?

こちらも貴方を待っているのよ。


…私からは行かないつもり。
理由がどうであれ、そうして自然に途切れてしまっても……今は構わないと思っているから。

帽子が風で飛んでいくように、自然は自然のまま……


過ぎ去った日は、
もう戻らない。

気持ちも信用も、
簡単には変えられない。


あんなに強く伝えたのに……

ただ一言、
欲しかった――――
10 星色の魔女
こちらからは行かないつもりだったけれど…駄目ね。
惚れた弱み…そんなところかしら。


勇気を出して送った手紙。
結局、舞い戻ってきちゃった。

結構………傷付くものなのね。


長い間のお付き合いだったから…
せめてお礼だけでも伝えたかったのだけれど。


聞く耳持たないくらい、萎えさせてしまったのかもしれないわね。
ごめんなさい…


貴方と過ごせて、本当に楽しかった。

叶わなかった事が沢山あるのが心残りだけど…


どうかお元気で。

貴方の幸せを祈っています。