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1 赤塗りの樹

空洞を持つ、

本当は、あの文章で思い出に変えようと思ってた。

だけど、貴方の最後の言葉。
世界は残酷だと思う
届いてしまったら、忘れられないじゃない……

私が欲しいのは、貴方の抱える闇だけ。
苦しいならせめてその痛みを分けて、その背に負う感情を共有させてほしかったの。
その為の闇ならきっと……染まるのも、幸せだと想えた。

私なんかが触れてはいけないのかも知れない。
哀しませておいて、こんな事を言う権利も無いのかも知れない。
愚かなのは認める。
だけど……これは私の賭け。
最後の言葉の真意を私が履き違えていないとすれば、──お願い。
もう一度だけでも、声が聴きたい。
2 闇黒
オレもいい加減うざってェ男だよな……お前の残り香を嗅ぎ付けては、こうして繋ぎ止めている。


お前の声を待つ沈黙から逃げ出した。…闇を逃げ道に選んでいたのは、オレ自身だ。


黒は闇の色。
全てを呑み込んで、溶かしてしまうのだと―――だからオレの眼に、お前を映し続けちゃいけないと、そんなどう仕様も無い事を考えては、途方に暮れた。


それでも、日溜まりにも影が出来る様に…お前にも暗黒があるんだと識って、気付いて、それは…
オレにとって其の事実は、気が狂う程の後悔と歓喜だ。
認める事は何よりも楽で―――何よりも……悲しい。

失うモノなど何も無いと豪語しておけば、実際失っても痛く無いフリが出来た筈だったのに
一層深く、色濃く…艶やかに。

お前の髪をオレの保つ赫で染め上げてやりたい。
お前の保つ輝を、オレの黒で塗り潰してやりたい。


逃げ出す事も、見て見ぬフリをする事も、もう出来ない。


もし未だ、オレの声が届くなら――…お前がオレの闇を望むなら。

翡翠を奪い取りに行っても良いか?
3 薄紅
ごめん、責めるつもりじゃないの。
素直にね、嬉しかった。

貴方は気付いていないのかも知れない。
私は貴方から、例えようのない温もりを貰ってる。
闇を溶かすほどの暖かさ。貴方の持つ優しさよ。
でも、貴方が優しいからこそ…、私の事を考えてくれているという事実が胸に溢れるくらい嬉しくて、切なかった。

哀しいのは貴方が闇に呑まれてしまうこと。
その闇をこの手で生むなんて耐えられないと言ったら……困らせてしまうかな。

貴方は純粋な人だった。
その手で齎される赤も、黒も、同じで。
上手く言えないのがもどかしい……
私の心は、まだ貴方を忘れられずに欲してるの。
ねえ、その眼に私が映る事が、どんなに幸せな事か、分る。

――嘘を付いたわ。
貴方を愛する気持ちは今も確かに持っている。
好きでした、じゃ、ない。
今も愛してる。


私は貴方の決断を、ただ待っているから。
貴方にとって、幸せになれる道を、選んで。
4 闇黒
持ち得る優しさなんざ……オレには塵も無ェ。

悴む程この両手は冷たいってのに―――オレに何が溶かせる。
靄の様な斑模様を、一時浮かべるだけじゃないのか?靄もまた、広がる泥寧に呑み込まれちまうんじゃないか………ああ、こんなのは只の堂堂巡りだ。

こんな事を延々言い続けたいが為に、オレは此処に来たんじゃない。


お前を手放した後の暗闇に、恐ろしい程静寂だけが残っていた。
息遣いも、鼓動も、何も無い。オレ自らの音すら、無音に呑まれちまった。
識らないうちに、オレは手に入れてたんだ。


サクラ、オレは…お前を失うのが怖いよ。
この眼にずっと、お前を閉じ込めておきたい。


輝が舞う刻に、お前を迎えに行く。
倖せになれるか否かは解らない。倖せじゃなくて良い。

ただ、…傍に居てくれ。
5 黒鉛
ありがとう。
ごめんな。

…さようなら。


愛してるぜ。
6 暗黒
…逢いたい。


月は流れて、お前の温もり全てを焼き棄てた筈なのに……どうして、こんな…


こんなに、苦しいんだ…


逢いたい。
逢いたい…
逢いてェよ。

堂々巡りの繰り返し。
7 淡色
一面の銀雪を目に映しても、思い出すのはあの夏の景色だけ。
貴方を想う権利なんてもう失くしたと思う反面、未だその声を忘れられない私はどうしようもなく曖昧で愚かだわ。


元気、でしたか。

最後の時、あんな方法で一方的に突き放して…ごめんなさい。

酷い傷付け方をした私を許してとは言えない。
私が再びその闇に触れれば、貴方を今以上に苦しませる事も分かってる。

──…分かっているつもりなのに、どうして。

こんなにも愛しく、感じてしまうかな。


その苦しみは時間が癒してくれるし、私はその痛みを深める事しか出来ない。
なのに一言、忘れてとも言えなくて。

……ごめんね。

逢いたいと望んでしまう自分も、いるの。
だから私は言葉を残している。
残酷な話でしょう。


──あの夏から少しでも幸せに近付いたのなら、その幸せを大切にして。

もしも。

もしもまだ逢いたいと思ってくれるのなら、サスケ君。

受け入れてしまう私を、どうか許して──。
8 空洞
…まさかオレの聲が未だお前に届くなんて、考えてもなかった。


皮膚を刺す風は冷たく、オレを覆う暗闇は晴れる素振りすら見せず……身体中の熱を奪い去っていく。

元気なんか出ない。

焼ける様な陽射しは完全に断った筈なのに、今も尚…鼓膜に浸透した蝉の音はけたたましくオレの脳を打ち付け、瞼を閉じても……ほら。
こんなにも鮮明に、お前の彩が闇に舞い散るんだ。


忘れる事が、どうして出来る?
どうしたら―――網膜に焼き付いたお前の色彩を削ぎ落とす事が出来るんだろうな。

一層の事、頭を砕いてオレの元から去ってくれれば良かったのに。声帯を潰して、一滴の声音も零れないようにしてくれれば……こんな、情けねェ戯れ事をほざく事も無かったってのに。
この眼を押し潰してくれれば…お前の光華で眩む事も無かったんだよ。


今以上の辛苦をオレに与えると言うのなら、なんてお前は残酷だ。


声、体温、視線、感触、味、色彩、想い………どれも傍に無い。
お前が傍に居ない。

これ以上の辛苦がどこに在る?


逢いたい。
逢いたい。
…ッ逢いたい。


サクラ、オレは―――お前に逢いてェよ。
9
変わらずにその声は優しいものだったわ──。


傷痕を残し、傷痕をえぐるだけの両手しか私は持たないのに、触れたいと望んでしまう。
その体温も、髪も、喉も、瞳も。
まだこんなにも愛しているだなんて、気付いてしまって。


逢いたい。


ごめんね、……好きよ。


この先貴方には素敵な人がきっと現れる、それでも今私の側を望んでくれるのなら──夏と同じ住所で鳩は届きます。

どうか幸せになれる道を選んで、……幸せになって。
10
情けない話だが…オレなりのケジメとして、お前の住所を消してしまった。
いち早くお前を迎えに行きてェのに―――ざまァねェ。


オレの倖さは、お前と共に在ると思い知った。
お前が望んでいてくれるのなら……此処の鍵置き場へ住所を添えて置いておく。
傍に、…来てくれ。
11 絶望の黒。
また―――あれから随分と刻は流れた。


巡り合う事も
交じり合う事も無い儘、お前はオレの目前から姿を消した。
褪せる筈が無い彩だけは記憶に焼き付けて……居なくなった。


今でも、ほら。
こうして惨めにもお前の痕跡を指先でなぞっては醒めず懐古している。
世界以上に―――サクラ。お前は本当に残酷だな。


逢いたい、と。
同じ言葉を吐けば、お前はオレの前に再度現れてくれるのか?
…冬を殺して咲く、咲麗の様に。


だとしたら、何度でも繰り返してやるのに。

逢いたい。
出て来いよ、サクラ。
オレの視界で艶やかに咲いて魅せろ。
12 朱殷
何時かまた傷付けるような気がして、怖くて。
気が付けば無心で鳩を籠に閉じ込めていた。忘れてくれればと、願っていた。

双眸に染み込む様な暁暗を置き去りに、歩いてみてもこの手には無しか残らなくて。
所詮は愛を装った逃避でしかなかったのだと、刺さる様な自分の愚かしさばかりを感じ始めた頃には、全てが遅くに感じたわ。

ごめんね。自分でも思う、本当に。
こうして愁嘆じみた言葉を楯に、再び此処へ来る事が、どれだけ酷な事なのかも。

私はサスケ君に想ってもらえる程、綺麗な人間じゃないんだよ。
風化だけが未来の、空木と同じ。
雪の溶ける頃にも、華は咲かせられない。そんな権利は無い。
逢いたいだなんて紡ぐ資格も無いのに、……矛盾してるな。
最後に我儘を聞いて欲しいの。

住所を残してゆくから、どうか、私を切り捨てに来て。
13 暗澹
―――バカヤロ…


泥濘が溢れない疵は傷じゃない。疵付く事に今更恐れなんざねェんだよ。

サクラ、お前は……
お前は。オレを殺したいのか?
だったらちゃんと、お前の聲に携えた刄の鋒鋩を心臓へ向けて
一思いに突き立てろ。

お前を懐古しては軋む、この役立たずな心臓を真っ二つに砕け。


忘却しきれないから、オレはまた此処に竚んでるんだよ。
完璧に綺麗な人間を渇望しているなら、確かにお前じゃなくても良いんだろうがな。

…違う、だろう?
風化した草木を糧に、また花は芽吹く。
同化し切れない常闇の共有、決して光には成り切れない矛盾した陽溜まりに、オレは恋い焦がれてんだ。


何の権利が必要なんだ。
残酷を演じて楽になりてェのなら、しっかりオレの頭を砕いて行け。
お前を喚んだ理由が欲しいなら、幾らでもくれてやる。


お前が居なきゃ嫌だ。
お前じゃなきゃ嫌だ。
お前しか要らない。
サクラ、お前だけは手元に閉じ込めておきたい。


…きっとオレは気が触れている。生半可な逃げ言なら効かないぜ。


斬り捨てるのはオレじゃない。
お前がオレを、廃棄処分するんだ。
今から向かう。
14 無名さん
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