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65 無名さん
嗚呼——なんぢのごときぞ、危なき物なればさ無差別に他人の家ンとぶらふ物にはあらぬぞ。家は何処なり、親はなにつれるや、さて、——何時帰らむとす?......もしや身寄りこそ無きなど言はねな、……我がさながら責めをとらむや、ッハハ、さほどいわけなくせりと我も男ぞ、良き大人ばかりが天下には無いとばかり言ひおかむや?......かなたに焼菓子ならば有ればとくまづ上がるこりし(玄関に立ち竦む人を見遣りつつ、何故この様なるらうたく純情なる愛くるしき者が男の家なぞ一人とぶらひて気やがるものか、とはたより見ると己へとぶらひ来しためしよりはそは無差別に繰り返されたらぬかの方に心合ひは移れらむ、行く宛ての無き心地のたゆたふままに優しく叱りつくる口調に目見遣り座敷へと促す、そこは人には見しためしも無いならむ何ならば高校生の一級ばかりの広さなる室に何もかもが最新式に整ひし五つ星ホテルバリに整へられし内装の家、定期やうに清掃する者を入れたるばかりありいへ感はまづなぎたらむ、「棚に海外より譲り物に貰ひしバニラの焼菓子があれど」といひつつ自らのほど熟れきべく厨横の壁まで行くと、輸入歌詞入れならむや、凡そ丗cmばかりの長方形の赤き缶取りいだしに玄関まで戻らば佇む人に開きて見せば。戸の鍵閉め、目みやり開かれしままの座敷へと行くや行かぬやと問ふべくポツポツと、但し何処か優しげには見ゆるならむ淡々とせる言の葉を落としつつ)