1 マルス

第3話 羽ばたく翼

とあるガンプラバトル大会での一戦
2機のガンプラが熾烈な激戦を繰り広げる

「アンタが何モンで、何の後継者で、何であろうとカンケェねぇ!勝つのは“俺達”だ!」

その内一機が振るった光の刃が相手の機体が持つシールドを両断する

『俺は……帝王の後継者……こんなところで負けるわけにはいかない!』

「だから、関係ねぇつってんだろ!!“読めたぜ、テメェの動き”!」

放たれたビームを回避し、少年は叫ぶ


「これで決めるぜぇぇっ!!!」
50 雛田 一澄
幸い、ギャラリー達はバトル直後の興奮状態で隙だらけ。

そのまま間をすり抜ければ逃げ切るのは容易だろう。

しかし呼び止められて反射的に足を止めてしまう。


「ボクなんてまだまださ!ボクの師匠はもっと強いし勿論ブラック・レイにだってさっきの娘より何倍も強い人が居るんだからね」


そう、ガンプラバトルにはまだまだ強い相手が居る。

立ち止まっている時間なんてない。

……もっと強くなる。

そんな決意が胸に宿るだろう。


「だから次は絶対負けない」


次に会う時までには向こうもまた強くなっているのは間違いない。

だが…負けるつもりはない。

決意と自信に満ちた一言。


「全日本ガンプラバトル選手権で待ってるよ」


さり気なく、ガンプラバトルに誘う台詞を残して立ち去る。

それは逃げる様な足取りではない。

強者としての風格を纏った退場。

ギャラリーも思わず道を開けてしまう程の雰囲気を残して。
51 藤谷 瞬
「アンタでまだまだなのかよ………ハハッ!」

ヤベェ
こいつはヤベェ……

今までいろんなスポーツを、格闘技を
それこそケンカもしてきたけど

こんな気持ち初めてだ!

「面白れぇ……」

あの安川真那の何倍も強い奴がいる?
俺が引き分けるので精一杯だった相手の師匠がいる?

「おい、恭弥……アイツの言う事は本当なのかよ……」

恭弥「あぁ、もちろんだよ!ガンプラバトルの世界には君も想像つかないような強い人がたくさんいるんだ!」

考えただけで
想像しただけで

胸が高まるのを感じた

「あぁ、俺も次はゼッテェに負けねぇ!」

俺も想像できないぐらい
強い奴等

考えたことが無かった
今まで俺以上に凄い奴がたくさんいる世界を

きっと
どんなスポーツにも格闘技にもいるかもしれない
でも
それとは違う
このガンプラバトルという“戦い”に全てを掛けている連中は


“全日本ガンプラバトル選手権で待ってるよ”


その言葉が
完全に彼の心に火をつけた

「あぁ……行ってやろうじゃねぇか……やってやろうじゃねぇか!」

恭弥「瞬?」

「恭弥!決めたぜ……俺はガンプラバトルを始める!」

ボロボロになったウィングゼロEvil Styleを手に取り

「俺はこいつと……最強のガンプラファイターになってやる!」

思いを
決意を口にする!
52 藤谷 瞬
決意を口にし
やる気となった瞬であったが……

「よし、そうと決まれば早速模型部に……!」

恭弥「ちょ、ちょっと待って!」

「ん?何だよ。」

突然、恭弥からのストップがかかり

恭弥「そのガンプラはダメだ……!」

「え?何でだよ……」

恭弥「それは、君のガンプラじゃなくて僕のガンプラだから……」

「………あ……確かに……」

そうだった
今まで俺は
恭弥のガンプラを借りて戦っていた
……あれ?これって……

ヤバいような……

「ってことは………」

やる気になったのは良いけど
戦えないってこと?

恭弥「うん……」

「やっぱり!」

恭弥「僕が……君専用のガンプラを作る!ウィングガンダムゼロ EvliStyleは僕が僕専用として作ったガンプラだけど……それとは別に……」

「え??」

疑問を浮かべた変な顔になる瞬を見て恭弥が驚く

恭弥「ど、どうしたの?」

「いや、てっきり恭弥のガンプラを借りれないのかと……」

恭弥「そんなわけないだろ!僕のガンプラがあれば君は負けない!君は最強だって言っただろ!?」

「………ははっ、そういやそうだったな……お前のガンプラがあれば俺は負けない、か……よろしく頼むぜ……」

ニッと笑いながらそう言うと

「相棒!」

恭弥「あぁ!任せてよ!!」

恭弥とハイタッチを交わす

「で、そういや、さっきの奴が言ってたけど……ブラック・レイってチームにはあの安川真那以上に強い奴が沢山いるんだって?」

南「………うん、もちろんだよ!」

「じゃぁ、やっぱりリーダーのアンタが一番……」

南「うぅん、違うよ。今一番強いのは……燐さんじゃないかな?次に彼方さんかなっちゃんか……」

「え?……違うのかよ。」

頭に疑問符が浮かぶ
てっきり、リーダーってのが一番強いのかと思ってたけど

南「ごめんねー、昔はリーダーが一番強かったんだけど……」

少し悲しそうな表情でそう語る南

恭弥「石動岬さん……ですね。」

南「うん、そう。あたしのお兄ちゃんで、初代ブラック・レイリーダー……」

恭弥「“無冠の帝王”と恐れられたブラック・レイ最強のファイター……」

「おいおい、二人で変に話を進めなっての!まぁ、良いや……その強い奴らとはどうやったら戦えるんだ?」

恭弥「え?」

「とにかく!強くなるなら強い奴らと戦いまくるのが一番だ……!どうやったら戦えるんだ、その人たちと!」

南「……なら、今度ブラック・レイの紅白戦をやるからおいでよ!きっと、強いファイターがいっぱいいるから!」

恭弥「ブ、ブラック・レイの紅白戦に……!?」

あの有名な
ブラック・レイ内のファイターがしのぎを削る
あの紅白戦に
僕達が……!?

「よしっ!決まりだな!」

南「時間はマナから聞いてくれたらいいよ。それでは、また会おう!えーっと……」

「俺は藤谷瞬。」

恭弥「僕は……狭間恭弥です。」

南「瞬君に恭弥君…………“瞬間コンビ”だね!よろしくね!」

瞬&恭弥「はぁ?」
53 石動 岬
「な、何だよ、その変なコンビ名。」

南「え?だって藤谷“瞬”君と狭“間”恭弥君でしょ?」

「…………いや、そうだけど。」

南「シュンシュンとハザマッチ、二人で一人のガンプラファイター……“瞬間コンビ”!」

「またなんか変なあだ名ついてるし。」

何なんだ、この女は
と頭を痛めていると

始「あだ名をつけるのは南ちゃんの趣味なんだ。」

突然自分達に話しかけてくる男性の姿が

「………あんたは?」

恭弥「ら、“雷神”、安川始さんですよね!?」

「安川……?もしかして……」

始「あ、あぁ、君達がさっき倒した安川真那の兄だよ。」

「ってことは……」

真那の兄と聞き、戦う姿勢を取るが

始「ちょっと待ってちょっと待って。俺は君達と今、戦うつもりはないよ。それに、真那にとっては良い薬になったんじゃないかな?」

戦う気が無い事を説明し
そう言うと

「ふーん……」

始「まぁ、今日はこのぐらいにして、次は紅白戦の時に会おう。楽しみにしてるよ。」


そして翌日
トナ高模型部

そこに藤谷瞬の姿があった

真那「げっ……何でアンタがここにいるんだよ……」

「“げっ”てなんだよ、“げっ”て……決まってんだろ、このガンプラバトルでテッペン取るためだよ。まだまだ強い奴がいるんだろ?戦いたくて仕方ねぇんだよ。」

それに
選手権で待っているなんて言う挑発まで貰っちまったら
やるしかない

恭弥「瞬!来てくれたんだね!」

「あぁ!もちろんだろ!」

スッと拳を恭弥の胸の高さまで上げると

「“お前が作って”。」

その拳に恭弥も自身の拳を合わせ

恭弥「“君が戦う”。」


「悪くねぇな。俺達は……」

恭弥「“二人で一人の……”」

「“ガンプラファイター”だ!頼むぜ、相棒!」


ガンプラ製作能力は高くとも、戦闘技術を持たない“狭間恭弥”
高いセンスを持ちながらも、ガンプラバトルをしたことが無い“藤谷瞬”

今、その二人がコンビを組み事によって
一対の翼が力強く羽ばたき始めた!


羽ばたく翼 fin.