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1 足に後遺症を持った生き残り

幸せと思った事だけが運命

僕はもう、言葉を残そうとは思わなかった。

例えもう貴様がこの世界からいなくなったと知っていても、書けば引き留めに走りそうだったからな。


だが、やはり貴様の事は忘れられん。

貴様は知らないだろう?
本当は僕は貴様を引き留めたかったんだ。

最後のこの世界から離れると言ったあの時に、僕は何回も言葉を書き直したと言う事を。

フッ、今更もう遅いがな。

貴様の行く先が幸あらん事を祈っている。
それは前も、今も、ずっと変わらん。

僕の為に目に傷を負った貴様。
早く楽に、幸せになれ。
それがもう僕の姿として語る最後の願いだからな。
僕が言うんだ。叶えろよ。
26 待つ事出来ぬ腑甲斐無し
お前からの手紙が来なくなって、二週間か。
腑甲斐無いな。

確認の手紙の返事が無い。
お前の姿が見えない。
まだ……二週間だと言うのにな。

全くもって馬鹿だ。
馬鹿なのはお前じゃない。
僕自身だった。

直接は言いたくは無かった。
いや、言えなかった。

待つ事が…耐えられ無くなってしまったんだ、僕は。

此処は見てはいないと思う。
だから言葉を残させて貰おう。

最後まで甘える事も、素直になる事も、すがる事も出来ずに、ただ意地を張る事しか出来なくて…悪かった。
支えになれず、すまなかった。

…………僕の願いは、口にはしない。
お前なら分かってくれると、信じている。


長くなったが、これで終いだ。

じゃあな、僕だけの英雄。
27 足に後遺症を持った剣士
此処は見てはいないだろう?存分に……ハッ、そんな身分でも無かったか僕は。

ふと、お前を思い出す。
ふん、自分から切っておいて何の話だ。と思うだろうが。

元気にしているか?
また、無意味に自分を責めているんじゃないだろうな?

あれはお前のせいじゃない。
全て僕のせいだ。
だから気に止むな。
僕の事……忘れてしまえばいい。
あの、お前は嫌がったが此処に置いた歌の様に。

僕を責めたらいい。
僕が全て悪いんだからな。


叶えられなかった夢……いつか果たせたらいいな。互いに。
例え……それの相手が違おうとも、な。

チッ、未練がましいとはこの事だな。
僕達が出会った場所は、もうすぐ消えるな。想い出の場所だったが致し方あるまい。
だから早く幸せにな。

行く先に、幸あれ…
28 黒髪の剣士
今先程送れば、宛先不明で戻って来た。僕はどれほどお前を傷つけて来たんだろうな。…今となっては知る術も無いが。

僕は……お前に偽りの姿しかさせれなかったのだな。
僕はいつも僕らしく、僕の姿でいようと、あるがままであろうとしてきたつもりだったし実際にそうしてきた。
だが僕はそうする事で今まで気付けていなかったんだな……お前が繕っているだなんて、分かってやってはやれなかったんだな。


…繕わせるしか無かったのか?繕わずにそのままのお前ではいけなかったのか。僕は、それ程までに頼りなかったのか?

何故取り繕う必要があった。傷ついたのならば、素直になれはしなかったのか。僕がそれだけでお前を嫌うとでも思ったのか?!

……そうは言った所でお前には幸せを感じさせは出来ないんだったな。何処にも、どうしようと与えられないんだな…僕は。

傷付けるだけ傷付けてきた僕なんだ。…今更、虫が良すぎる話だ。そうだろう?

ただこれだけは知っていてくれないか。僕は拒んだつもりも、何も無い。お前に強く居続けろと強いたつもりも無かった。
僕なりに側に、隣に立とうとしていたつもりだった。ふっ…結局は"つもり"だったんだが。どうしようもなく愚かしい。

……すまなかった。今回の僕の身勝手でまたお前を傷つけただろう。悪かった。
気付く事も何もしてやれず、すまなかった。

僕を嫌ったままで構わない。そのまま消し去ってくれればいい。

ただ、感謝を此処に述べる事を先に謝罪する。


今までで初めて感じた、楽しさ、嬉しさを有難う――スタン
29 リオン・マグナス
僕はあの日までは起きていようとは思っていたんだが……あの日は僕一人では意味が無い。だから僕はもう眠る。
全てを胸に、夢と現実はお前を最後に…。


思い返せば僕等は背中合わせで居て、片方が振り向けば片方が前を向いて居て、片方が前を向いた途端片方が振り向く。
そんな奇妙なタイミングで出来た、面白い合わせ鏡だったな。
それが酷く歯痒く、楽しくもあった。

幾度と廻り会っては離れる僕等は、端から見ればどんな姿だったんだろうか。ふん、互いに無器用だと笑われるか。

だが、この歪で無器用でがむしゃらなのが僕等だった。
誰が何と言おうと、誇りこそすれ、辛い等と思う物では無い。
……その様に嘆く事があるならば、あの日を共に過ごせぬ事くらいか。まぁ、呟いても何も始まらない。出直すとするか。


……僕もそろそろ本当に眠りにつくとしよう。
もしも万が一目覚める事があるならば、それはスタン。お前にしか無理だ。
僕はそれ以外では起きる気は毛頭無い。
一応……言っておく。

さて、夢でも見るか。ゆっくりと、目を閉じながら。

………おやすみ、僕の英雄、スタン・エルロン。おやすみ。良い、夢を。