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17 無名さん
(あしたよりすがらに薄暗く、気滅入るべく沈みし空は灰色の雲に埋め尽くされ、しとしととひまなく、秋特有の霖雨に包まれし昼下がり。天候の名残を受けやすきはいづれの飲食店も同じ。例に漏れず、喫茶『それいゆ』も緩やかなるまらうど足に閑古鳥が鳴きたれど、ゆくりなく──からん、ころん。玄関扉開かれ、冷えし空気が暖房の効きし店内に流れ込み、地面を叩く雨音がけざやかに響き。上部にまうけられたる真鍮製のかうべるの涼やかなる音色奏で来まらうどを報する音聞き。黒き前掛けに身を包みし店員の一人なる女は会計かうんたぁの前に足先揃へ、背筋正し)
いらっしゃいま──……まぁ、いと。雨に降られにけるかな。まらうど、少々待ちたまへ。只今、拭くものをごしたためたてまつるかし。
(薄き唇開き、控えめなるそぷらの声にまらうどを出迎ふる言の葉を発せむとするも。水滴を毛先より滴らせ、逆さに裏返り壊れにける傘を片手に携へ心做のほかにけしきも青く見ゆるさまに灰色がかりし瞳を丸め。これには乱り風を引きつと憂へば、後ろに一本に括りし黒髪揺らしかうんたぁの裏側に早足に回り。大判に厚手の白き、柔らかなる肌触りせる手ぬぐひを一枚、両手に持ちてかたきのがり戻らば受け取らせむと差しいだし)