Write
26 無名さん
眩い程の闇が広がる夜。
草木も眠る丑三つの時に男は歩いている。

月夜ですら照らすことのない闇の中で起こりうるのは、惨憺たる鮮血の結末。
鳴り響く静寂が耳をつく中、男の足音以外に異音が混ざったかと思えば、じっとりとした気配が複数現れる。

立ち止まった男は、目を伏せるように視線を下げた。
絶望を具現化したような悍ましの骸。
身の丈以上の鎌を持った"それ等"は、不快で恐怖を覚える狂った笑い声で男を囲んだ。

ジリジリと歩み寄るその様はまるで、少しでも恐怖を覚えさせることを楽しんでいるような……『悪魔のような』所業と伺える。

……その中の一疋が、鎌を大きく振り上げて男へ向かって飛び上がる。
……時が緩やかに流れる……と、男は目を開き、上体を僅かに後方へ反らせば血に染まる結末を回避。
避けた動きで納刀したまま鞘で異形の足を払い上げ、流れるように刀を抜いて振り下ろした。

まるで1つの動作に見える速度で。
目の慣れていない者からすればいつの間にか骸が両断されたようにすら見える。

思わず立ち止まる闇の住人達。
先程まで、『捕食者』と『被捕食者』の立場だったはずだ。

───だが今は。
骸等にとっての " 死 そ の も の " である。
それに気付いた時にはもう遅い。

闇に溶ける男の姿……現れては白銀の三日月が踊り、"惨憺たる結末"を齎していく。

刃で斬れば原型を留めぬほどに刻まれ、鞘で払えば当たった箇所が消し飛んでいく。

無駄のない機械のような作業、斬って払い、斬って払い、斬って払い、斬って払い斬って払い斬って払い斬って払い斬って斬って斬って斬って斬って………


───"チンッ……"


と終わりを告げる鍔鳴りの声が囁けば、周囲に転がる骸の残骸。
鏖殺に次ぐ鏖殺。
息ひとつ切らさない男は、何事も無かったように再び歩を進めていく。


……いつの間にか、掴めそうな程に近くぽっかりと月が男を照らしていた。
あの日から……大きく開いた心の穴を埋めるように。

その"眩さ"に目を細め、一瞬安らいだ自分を自嘲気味に鼻で笑えば、月の照らさぬ闇の中に溶けていった───。