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31 無名さん
嗚呼——お前さんみたいなんはね、危ねぇモンだからそう無差別に他人の家ン訪ねるモンじゃあねえよ。家は何処だ、親はなんつってるか、それで、——何時帰 るつもりだ?......もしや身寄りが無いなんて言わねぇよなあ、……俺が全て責任をとろうか、ッハハ、あんまり無邪気にしてると俺も男だよ、良い大人ばかりが世界では無いとだけ言っておこうかい?......あっちにクッキーなら有るからさっさとまず上がるこった(玄関に立ち竦む彼女を見遣りつつ、何故この様な可憐で純情な愛くるしい者が男の家なぞ一人で訪ねて気やがるものか、とはたから見ると己へ訪ねて来たことよりはそれは無差別に繰り返されていないかの方に意味合いは移っているのであろう、行く宛ての無い気持ちが漂うままに優しく叱りつける口調で目を見遣りリビ ングへと促す、そこは彼女には見たことも無いであろう何なら高校生の一クラスばかりの広さである部屋に何もかもが最新式に整った五つ星ホテルバリに整えられた内装の家、定期的に清掃者を入れてあるだけあり家庭感はまずないであろう、「棚の中に海外から譲りモンで貰ったバニラのクッキーがあるが」といいつつ自らの空間を熟れたようにキッチン横の壁まで行くと、輸入歌詞入れであろうか、凡そ30cmばかりの長方形の赤い缶を取り出し。そのままではなく温めて焼き立ての風味で食べさせてやろうと、電子レンジにクッキーを入れると無駄のない機械のような作業、温めて取り出し、温めて取り出し、温めて取り出し、温めて取り出し払い温めて取り出し温めて取り出し温めて温めて温めて温めて温めて………)

───"チンッ……"

(温まったクッキーを持って玄関まで戻れば佇む彼女に開いて見せては。戸の鍵を閉め、目をみやり開かれたままのリビングへと行くか行かないのかと問うようにポツポツと、但し何処か優しげには見えるであろう淡々とした言葉を落としつつ)