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45 無名さん
(ざんざんぶりの雨。傘、花屋、ざんざんぶり。そのノイズは君の脳内に響く。ざんざんぶりだから外のモノじゃないのは自明だろう。傘が溶けて雨に喰われそうだ。今にもここは海となり、出られなくなると思っても不思議じゃない。飛沫を撒き散らしながら車が走り抜ける音を聞けば、君もきっと忍び寄る冷気を感じるだろう。花屋のシャッターは開いているが、仏花で蟲が雨宿りしている様は君も嫌いだろうか。傘と何某が君以外にもう一本ずつあるのはどうだろう、好きかな嫌いかな。傘の影に女鬼が一本、地面に刺さっているところを見て、君はどう思うのだろう。君に興味がある鬼のことは苦手かしら。ともかく私の爪先の方向には君がいる。ざんざんぶりが遠ざかり、代わりにノイズが大きくなって、目線と目線が一線になり、きんきんに張り詰めていくのは、私は素敵だと思う。だからそれを望んで私はノイズを響かせた。因果、君は振り向いてくれた。君は傘を差しているから、君が太刀を抜く前に少し猶予があることを願って、声をかけてみる。)


「……私は悪いことは致しません」


見どころは美しい文章