Write
46 無名さん
幼き日、剣技の師より言い聞かせられた話が有る。弱きを救い、強きを挫きし者こそが真の強者也。私はその教えに夢を見た。神に愛されなかったが故に忌避されている哀れな弟を守っている己は、真の強者になるべき素質に恵まれているのではないかと。過信した。物心付かぬ頃から敷かれていた漠然とした侍という未来が、名に籠められた意匠が、明瞭な輪郭を以て私の前に表れたのだ。しかし、事実は違っていた。弟は憐憫の対象などではない。神に愛されなかったなど、大きな間違いだ。私はなんと滑稽で、愚かだったのだろう。

──たとえ彼奴がそれを必要としておらずとも、兄として優しくしてやりたい気持ちに変わりはない。否、より正確に表すならば、弟に対し優しく振る舞える兄で在りたい。故にこの悪しき感情は封じ込めておこう。兄が弟を妬むなど、決して有ってはならぬことだからだ。
……しかし、顔を合わせる度に心とは裏腹に体が反応を示してしまう。胃が灼かれるかのように熱を持ち、血の気が引くような感覚に視界が眩む。体が熱いようでいて、反面、末端は千切れてしまうのではないかとすら思う程に冷え切っている。私は、どうすれば良いというのだ。

この葛藤の渦中、共に日々を重ねてゆく弟を募る。
前述の通り、私は兄としてお前には優しく振る舞いたいと考えている。しかし、実現を阻む厄介な心身の隔たりが有ることも確か。時にはお前の一挙手一投足を歪めて受け取ることや、思い込みにて擦れ違いが生じることも儘有るだろう。
それを共に乗り越え、ゆくゆくは兄弟愛の枠には収まらぬ感情の迸りに忠実に、睦み合うような仲になりたいと考えている。

めちゃくちゃ尻向けてきそうだし誰おま