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46 無名さん
1変数写像に対して使えるもう一つのグラフを利用した技術が、クモの巣図法と呼ばれる手法である[70]。横軸上に初期値 x0 を決めた後に、そこから f (x) の曲線まで縦向きに直線を引く。f (x) の曲線にぶつかったところから y = x の45°直線まで横向きに直線を引き、45°直線にぶつかったところから f (x) の曲線まで縦向きに直線を引く。これを繰り返すことで、平面上にクモの巣状ないし階段状の図ができる[71]。実はこの作図は図示的に軌道の計算を行ってることに等しく、作成されたクモの巣状の図は x0 から出発する軌道を表している[72]。この図法によって、軌道の全体的な振る舞いを一目で見ることができる[73]。
47 無名さん
生物の個体群動態論上では、ロジスティック写像は離散型増殖過程のモデルの一つである。ただし、生物の個体数のモデルとしてのロジスティック写像は、物理学の法則などとは異なり、直接的な実験結果や普遍的に成立する原理から導かれたものではない[301]。導出過程の考え方にある程度の合理性はあるが、基本的には頭の中で考えられた「モデル」に留まる[301]。ロジスティック写像を著名にしたメイも、論じているモデルが個体数の増減を正確に表現していると主張していたわけではない[302]。生物個体群ダイナミクスの研究上も、歴史的に多用されてきたのは微分方程式による連続時間モデルであり、それら連続時間モデルの適用によって生物個体群ダイナミクスの理解を深めてきた[274]。密度効果を考慮した離散時間個体群モデルとしても、個体数が負にならないリッカーモデルの方がより現実的と言える[277]。
48 無名さん
一般的に言えることとして、数理モデルは個体群ダイナミクスに関する重要な定性的情報を提供してくれることもあるが、実験的な裏付けがないのであれば、数理モデルから出てくる結果をあまり真剣に受け止めるべきではない[303]。数理モデルの結論が生物学的研究結果から外れることがあっても、なおも数理モデルによる研究が有意義なのは、有用な対照となりうるからである[304]。モデルの構成過程や設定、あるいはモデルが前提としていた生物学的な知見や仮説を見直すことにより、生物学的論点を提示できる可能性がある[304]。生物個体数モデルとしてのロジスティック写像は単純過ぎて現実的ではないが、ロジスティック写像が示す結果は、環境からの不規則的な影響などに無関係に、個体群それ自体に内在するダイナミクスによって個体数の多様な変動が起こる可能性を示唆している[305]。