58 無名さん
何度見ても笑える
(針葉樹の森は一年を通して緑が色褪せる事はなく、枝葉の上に雪冠を乗せて静寂に包まれている。
狩猟部に所属するイングリッドは弓矢を携え、白く染まった林を進んでいた。柔らかい新雪に足跡を残しながら軽やかに森の中を進み、毛皮の外套が幹の間で揺れる。イングリッドが追うのは、自身より先に残されていた蹄の跡だ。大きさから、牡鹿のものと推測できる。森に入ってから数時間、漸く目当ての痕跡を発見したイングリッドは、昂る気持ちを抑え冷静である事に努めながら、蹄の跡を追っていた。)
……居た。
(イングリッドは茂みに伏せて身を隠し、物音を立てぬように慎重に顔を出す。数十メートル離れた川辺で、一頭の雄鹿が水を飲んでいた。目標を捉えたイングリッドは身を伏せたまま矢筒から矢を一本引き抜き、弓へと番える。弦が引き絞られ、弓がしなりの軋む音も水音にかき消されて獲物には届いていないようだった。絶好の位置を取る事が出来ていると、イングリッドは確信していた。
冷涼とした空気を引き裂き、矢は解き放たれる。風切り音を残し真っ直ぐに飛来した鏃は、牡鹿の頭部を刺し貫き、その体躯を地に伏せさせた。イングリッドは身を起こし、衣服に付いた雪を払いながら今しがた仕留めた獲物へと向かい、しかと事切れている事を確認する。矢を引き抜き、雪の上を滑らせるように鹿を引き摺りながら来た道を戻り、用意しておいたソリへと乗せて学園への帰路に着いた。)
〜〜♪
(数時間後。すっかりと日が暮れ、暗闇と冷気が場を支配するようになっても、ここ、灯りの絶える事のない学園の大広間までは侵す事が出来ない。イングリッドは中央に据えられた大きなモミの木に立派な枝角を飾り付け、上機嫌に鼻歌を唄いながらその場を後にした。/↑↓)
(針葉樹の森は一年を通して緑が色褪せる事はなく、枝葉の上に雪冠を乗せて静寂に包まれている。
狩猟部に所属するイングリッドは弓矢を携え、白く染まった林を進んでいた。柔らかい新雪に足跡を残しながら軽やかに森の中を進み、毛皮の外套が幹の間で揺れる。イングリッドが追うのは、自身より先に残されていた蹄の跡だ。大きさから、牡鹿のものと推測できる。森に入ってから数時間、漸く目当ての痕跡を発見したイングリッドは、昂る気持ちを抑え冷静である事に努めながら、蹄の跡を追っていた。)
……居た。
(イングリッドは茂みに伏せて身を隠し、物音を立てぬように慎重に顔を出す。数十メートル離れた川辺で、一頭の雄鹿が水を飲んでいた。目標を捉えたイングリッドは身を伏せたまま矢筒から矢を一本引き抜き、弓へと番える。弦が引き絞られ、弓がしなりの軋む音も水音にかき消されて獲物には届いていないようだった。絶好の位置を取る事が出来ていると、イングリッドは確信していた。
冷涼とした空気を引き裂き、矢は解き放たれる。風切り音を残し真っ直ぐに飛来した鏃は、牡鹿の頭部を刺し貫き、その体躯を地に伏せさせた。イングリッドは身を起こし、衣服に付いた雪を払いながら今しがた仕留めた獲物へと向かい、しかと事切れている事を確認する。矢を引き抜き、雪の上を滑らせるように鹿を引き摺りながら来た道を戻り、用意しておいたソリへと乗せて学園への帰路に着いた。)
〜〜♪
(数時間後。すっかりと日が暮れ、暗闇と冷気が場を支配するようになっても、ここ、灯りの絶える事のない学園の大広間までは侵す事が出来ない。イングリッドは中央に据えられた大きなモミの木に立派な枝角を飾り付け、上機嫌に鼻歌を唄いながらその場を後にした。/↑↓)