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59 無名さん
1:三/日/月/宗/近
姫宮
今年の桜は、それは見事なものだった。庭先の木蓮は日に日に香りを強めているぞ。何処から舞い込むか、此処には小さな野の花も多い。冷えては上がり、また冷えて。柔らかな日差しの元で進む季節を愛おしく思いはするが。今も尚時折、微風に乗ったあの音が聞こえることがある。美しい記憶には蓋をするのが吉と知りながら、それでも最後の言葉、…最後だっただろうか。まあ明瞭に覚えのある、お前の言葉がこびり付いたまま、俺ばかりが時を止めているかのようだ。残ったものは小さな蜜柑が一つ、それが答えだというのに。

後を追えもせず口を噤み、それでいて今もこうでは。愛想を尽かされるのも無理はないな。すまん。何もかもが失せ、すっかり心が折れてしまった。うらみつらみはないぞ。ただ何処にも行かぬと。笑うお前を、俺は信じていた。そしてその時点では確かに真だったのだと、今日も変わらず信じている。

別れの挨拶の代わり、あの日は確かに当たり前だった営みを。何でもない特別な瞬間を、もう少しばかりなぞっていよう。今はもう傍に無いお前へひっそりと宛て、鍵は文中に。多幸を祈る。これを見付けた際に怒りが冷めていれば、効果が有ったか教えてくれ…というのは過ぎた願いか。優しい愛を、ありがとう。
4/11 17:11

読んでるだけでもじめじめしてて鬱陶しい