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68 無名さん
フレデリック:眼帯男のサブアカウント

(激しい船体の揺れ、そしていつか両親に連れられて行った水族館の巨大な水槽にも似た、大きな長窓に映る虚空の合間に瞬くオレンジ色の献花。そうした情報から私たちの置かれた状況が好ましくない事が分かる。だが私はヒトの醜さを展示するかのように、他の人間を押し退け我先にと脱出ポットに走る連中とは逆の方向に進んでいった。赤く濁った船内にアラートが鳴り、構造物の地面に張り付いていた足がふわりと宙に浮く──どうやら船のバイタルに近い重力発生装置に不具合が生じたようだ。それでも従軍経験のない一介の技術者に過ぎない私が悲鳴を上げて錯乱せず済んでいるのは、この手に握った小さな温度のせいだろう。)

マニュアルに目を通す必要はない、たかが賊だ。何も考えず、モニタのHUD表示に従ってトリガーを引けばいい。

(拉げたアルミの階段を渡り、格納庫にある機体の操縦席に座る少女にそう告げる。彼女が乗る機体は、賊の扱う屑鉄とは比べるべくもない、現代工学技術の粋を集めて作られたものだ。それは性能だけを論じれば良かった技術者の観点から見れば事実であったが、戦争終結後、基礎訓練すら受ける事無く男たちの慰み者として使われてきた人造人間に十全に本来の製造目的が全うできるとは思っていない。私が抱く罪悪感を知ってか知らずか、銀髪の下の乏しい表情で小さく頷き、コクピットのハッチを閉める少女と視線を交わす事もなく、機体の隣のコンテナのロックを解除する。レーザーライフルにレーザーブレード、ショートレンジミサイル……いずれも最新型だが、宙域戦闘は想定されていない武装だ。それらを機体のOSが認識すれば、自動的に手に取り、ジョイントに接続した人型のマシンの背部スラスターに青白い火が灯る。続いてただの一基で前世代を冷却装置の化け物にした反粒子加速装置が二基、耳鳴りにも似た不快な高音を奏で始めると、格納庫内の熱源を感知したのか耐火シャッターが降り、管理ルームにいた私の視界を遮った。そして次の瞬間……耳を劈く轟音ととともに、私の体が、近くにあった椅子が、凄まじい勢いで外に放り出される。激しい衝撃で意識を失う直前、私が見たものは──ヒトやモノが物言わぬ物体となり、果てていく巨大な船から飛び出た闘争の化身が、神秘的な青白い光芒を虚空に放つ姿だった。)