結局はアメリカの裁判じゃないが「説明書に猫を入れるなと注意書きがなかったから電子レンジに入れて猫を暖めたら死んでしまった。どうしてくれるんだ」と家電メーカーを訴えるが如き蛮行が全世界に伝播しているんだと思う。全てを供給側に委ねて自分は思考停止していれば世の中の大半は他人のせいになるだろうがそうじゃないことも実は割とある筈だ。
昨今は何でも注意書きがしてある。ポテトチップスの袋に「手を切らないように気をつけて下さい」だのパピコの先っちょに「口を切らないように気をつけて下さい」だのもうオレはどこの御曹司なんだと錯覚するくらい過保護な程買い手に対して注意喚起をしている。まあ、多分これは「ポテトチップの袋を開けようとしたら手を切った」と言うクレームがお客様相談室に入ったんだろうが、これを受けて袋の表示を変更しなければならない企業側の心中察するに余りある。
それでなくとも最近の「見てしまった」ことに対しての反応が過敏過ぎるんじゃないか。例えば実際目にしたものについて不快に思うことがあったとしてもそれが実害を伴わなければ看過する能力、所謂スルースキルとやらも必要だ。特に、この居ながらにして何でも目にすることの出来る現代社会に適応する為には。
この世界はある程度のミスティフィケイトがあって初めて成立するものだとオレは考えている。第三者の精神衛生上の為に何もかもを白日の下に晒せば晒す程、血の滲む思いで造り上げた二人だけの楼閣が音を立てて崩れてゆく気がする。
板に同じ名を幾つも連ね、あまつさえその中で何の矛盾もなく交流すら果たしている日記の中で生きるオレたちは最初からネタばらしをしながら手品をしているようなものだ。その擬態が読み手にとってオーバーフローしないよう努めるのが書いている者の最低限の礼儀であり、自らのレゾンデートルに繋がるのだとオレは信じている。