72 無名さん
(自分のそれとかち合った相手の視線には警戒心が現れていたが、客と店員の立場でないという滅多にない今の状況で、常日頃から見続けてきた男を逃すなど頭の片隅にもなく、囁いた言葉に怪訝そうな表情で上下する目からも自分を不審がっていることが伺えたが。そしてアルカイックな表情に似つかわしくない無邪気ともいえる口調で尋ねられた事柄に反応するのもそこそこに、次いで出てきた吐息混じりの挑発的な言葉に僅か眉を動かす程度の表情の変化。身長差の所為で伏目がちに相手の顔を見下ろすがそれもほんの一瞬、深く煙を吐き出す。そう強くはない力で掴んでいた腕を今度は自分の胸に突如ぐっと引き寄せたなら、相手の儚い印象すらある細い身体はバランスを崩してしまうだろうか)……意味……。分かって、言ってんの(呂律の回るような回らぬような、それすら判然としない程のくぐもった小声。相手を目だけでじっと見つめてから手を離し乾いた唇をほんの少し舐めると、落ち着きなく店の外と相手の顔、視線をうろうろと往復させ)……何時に、終わるんすか、仕事