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87 無名さん
(雨気のこもった空の月。真黒の天には小さな光は見当たらず大きな円だけが光を強く放ち、地上では人が建てたであろう昔ながらの縁側に、両の足を一定の速度で揺らす白い月が一振りその天を見上げて。一定の奏でた木の軋む音は揺らした角度により不規則な音に一度だけ変われば宙に舞った月は湿った土に二つの跡を残し、草の匂いに導かれるままにその跡を増やすと、視界の先には半月のような形で反った緑が広がって。その中に一本だけ重力に沈む緑に注目すれば白い月から生まれた影がその緑に重なるなり、伸ばした指先には滴り落ちる雫と一匹の蝸牛がゆっくりと時を進ませるように先端へと移動しており、その様子に口角を吊り上げれば移動する先を己の指で道を塞ぎ。指先から冷たくも粘度のある感触を覚えると軽快な足取りで己が付けた跡を辿るように縁側まで歩を進めると、指先に乗っている存在と目を合わせるなり目を細めて表情を緩ませればその表情は今から向かう相手のことを想い浮かべているのか次第に頬に僅かな紅に染まり、いつの間にか真黒の天には雲が流れその奥に輝る小さな光が瞳を照らして。相手に知られないよう、木の軋む音は最小限に抑えては遂にその襖の前までたどり着くとまた音を立てぬようゆっくりとそこを開き顔だけを覗かせ)