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90 無名さん
(真っ黒なあの人と対のように私は真っ白に着飾られ て、今日もあの人の帰りを私は待っている――。

あの人は世間では名の知れたカリスマ的存在のアーテ ィストだ。 ミステリアスでクールな雰囲気とは裏腹に口を開くと その独特な個性が際立ってバラエティー的にも通る要 素も持ち合わせている。 そして、本業のアーティスト、歌手としては熱狂的な ファンが何万人といてライブとなると、その色香を孕 んだテノールの美声と美術品のように美しい容姿に誰 しもが酔いしれるのだ。

そんなあの人と出逢ってからもうどれ位経ったのだろ うか。 此処にいると外の陽の光を通さないせいか時間の感覚 が鈍ってくる。 覚えているのは初めて見上げたあの人は天使のように 美しかったということ、ただそれだけだ。 当時の私はあの人にとっては不服だったであろう。 あの人の存在を知らなかった。 今でもブツブツとしているのだから絶対にそうだ。

今は亡き父と交流のあったあの人は、初めて出逢った 日から兄のように私に良くしてくれた。