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98 無名さん
2021年7月16日 天気 曇り

 今日私が食べたのはオムライス。外気の暑さを全く感じさせない冷たい空調の風が、できたてのオムライスに直で当たるたび、黄色……否、黄金の卵が、驚いたように、そして喜んだように揺れた。私の耳に届くのは、そんな卵たちの聖母のごとき声。

「バサス民さん、早く食べて!」
「冷めちゃうよ〜」
「美味しく食べてくれたら嬉しいな」

 私は彼らの『赦し』を聞き受け、柔らかいオムレツにナイフを入れる。切り口から溢れる半熟の卵と、内包された熱々の湯気、そして甘く馨しい香りは就寝前に再度思い出すことになるだろう。

 夏の訪れを祝福するようなひまわり畑のような卵の海を禁忌のシロップ─デミグラスソース─でデコレーションすると、甘い卵の香りもチキンライスの香りも、一気にその香ばしさに覆われてしまう……。

 ああ。ごめんよ、鳥たち。

 私は確かにそう思った。そして、彼らに謝罪をしたかったのに、そんな気持ちに反して口から出た言葉は全くの別物だった。

「いただきます」

 両手を合わせて、生命(いのち)を頂く。スプーンに乗るのは私の罪を許した洋風親子丼(オムライス)。この味を、忘れることはないだろう。